ウンナナクールが考える「女の子」の定義
364のお話をうかがう前に、まずはウンナナクールが掲げる「女の子の人生を応援する」という言葉について、どんな意味が込められているのか聞かせていただけますか。
塚本:ウンナナクールは2001年にスタートしたのですが、2016年でリブランディングするのを機に、「『ウンナナクールらしさ』とは何だろう?」と改めて考えました。そのときブランドパーパスとして挙げられたのが、「女の子の人生を応援する」という言葉です。その際ブランドのマニフェストとして、芥川賞作家の川上未映子さんに『女の子、登場』 という文章を書いていただきました。
女性が主人公の物語の中には、『白雪姫』や『シンデレラ』など、お姫様が主役なのに最終的には王子様に幸せにしてもらうお話が多くあります。長い間「きれいになって王子様に選んでもらうことが女性の幸せだ」という決めつけがあったように思います。
だけど現代の女性には、趣味や仕事など、自分自身で実現したい何かを持っている方がたくさんいらっしゃる。趣味でも仕事でも自分自身で目標を持って、成し遂げるために一歩一歩前進している。そんな女性を私たちは「女の子」と定義し、彼女たちの人生を応援できるようなブランドでいようと考えたんです。
そうなんですね。実は私自身、学生時代からウンナナクールの商品を愛用していて、今年で37歳になるので、さすがにもう「女の子」ではないよなぁと思っていたんです。そろそろ卒業しないといけないのかと……。
塚本:いえいえ。「女の子」というと「若い子が対象なのでは」と誤解させてしまうことがあるのですが、私たちは年齢関係なく「自分自身の夢に向かって頑張っている女性」全般のことを「女の子」と呼んでいます。「女性」ではなくあえて「女の子」と呼んでいるのは、「未来への伸びしろや志を持っている」という意味を込めているから。下着を届けることで、そんな「女の子」を応援したい。笑顔になったり、元気になったりしてほしい。そんな思いで、ウンナナクールは「女の子の人生を応援する」という言葉を掲げています。
ですから店舗のスタッフさんには、「皆さんの仕事は何ですか」と聞かれたときに、「下着を販売することです」だけじゃなく、「下着を販売することで、『女の子』の人生を応援しています」と答えてほしいと思っているんです。ウンナナクールにとって下着をお届けするのはあくまで応援手段のひとつで、店舗の内装や接客、年に一度更新する応援メッセージなども、全部「応援」なんですね。商品を買う・買わないに関わらず「来て良かったな」と思っていただけるような、そんなブランドにできたらいいなと思っています。
364の根源にあるのは「女性の自由と解放」
そんなウンナナクールで今いちばん人気の商品が364ということですが、こちらはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
塚本:ウンナナクールでは2008年に「ななふん」という商品を出したんです。これは「女性の自由と解放」をコンセプトにしたもので、下着から体を締め付けるゴムを無くそうと、『ふんどし』をベースにして作ったブラジャーとショーツでした。 今でもショーツ(ふんどし)は好評なのですが、残念ながらブラジャーは全然売れなくて(笑)。だけどこのコンセプトはすごく良いなと思い、そこからノンワイヤーブラの開発に力を入れるようになりました。
だけど作っていくうちに、「ワイヤー入りかノンワイヤーか」はそこまで重要じゃないと気づいたんです。一番大事なのは、「お客様のありたい姿」。その姿に近づけるならば、ワイヤーでもノンワイヤーでもどちらでもいい。ウンナナクールのものづくりはそのように、まずは「お客様がどんな状態でありたいか」を考えることから始まっています。「ノンワイヤーが流行っているから・売れているから」ではなく、「女の子の人生を応援する」という揺るぎないベースから始まり、そこから「こんな女性が、こんな気持ちのときにつけたくなるものとは?」というコンテキスト(文脈)を作っていくんですね。
そのコンテキストに則ってデザインや機能面が決められていく、ということですか。
塚本:その通りです。364は「『“特別な日”以外、364日』つけたくなるブラ」というコンテキストから生まれました。特別な日には、ワイヤー入りの勝負下着を選ばれるかもしれません。私たちはそれ以外の、仕事や学校に行ったり、買い物やお茶をしたりといった日常の中で、悩みなく「これがあれば安心」と思ってもらえるものを作りたい。そんな思いから、極力ミニマルなデザインと、つけ心地や素材などにこだわった機能面を追求して、364が生まれました。
正直にいうと、ノンワイヤーブラは他にもたくさんあります。だけど、364がここまで支持される良い商品となったのは、独自のコンテキストがしっかりとあったからだし、それをデザイナーとパタンナーがちゃんと共有して、二人三脚で同じゴールを目指したからだと思っています。
364のものづくりの背景には、そのようなプロセスがあったのですね。実は私はもともとワイヤーブラ派で、この取材をきっかけに364を初めて身につけたのですが、試着室でとても驚きました。ノンワイヤーでもこんなにしっかり支えてくれるんだな、と。
塚本:ありがとうございます。以前あるブロガーさんが「下から手で支えられているみたい」と表現されました。
それはとてもわかります!
塚本:ノンワイヤーってやっぱり、「楽さと引き換えに、胸が垂れるのでは?」という不安をお持ちの方も多いんですよね。私たちは、その不安や諦めを取り除きたかったんです。
バストの下垂の原因は、揺れや重力がかかり続けること。だから極端に言えば、無重力の世界なら下垂することはないんです。だけど地球には重力があるので、下垂を防ぐには引き上げるしかない。それをブラジャーでどうサポートするかが、うちのパタンナーの腕の見せどころです。364では、極力柔らかな素材とモールドカップを使い、身体にフィットした形で支えることを実現しました。
楽さときれいさが両立する商品があるんだな、と感動しましたね。まさに「自由と解放」を感じるつけ心地でした。
ミニマルなデザインでも「らしさ」は作れる
364を着用されたお客様からは、どんなお声がありましたか?
塚本:印象的だったのは、多くの10代のお客様から「シンプルでかわいい」というお声をいただいたことです。「シンプルでアウターにひびかないので使いやすい」というお声はこれまでもいただいたことがありましたが、「シンプルでかわいい」というのは新しいお声でした。
下着のデザイナーが下着をシンプルに仕上げるのには勇気が必要で、どうしても従来のようにリボンやフリルを付け足したくなってしまうんです。だけど364では、必要なもの以外はできる限り削っていきました。デコラティブなデザインよりミニマルに仕上げる方がセンスが必要で難しかったのですが、今回感覚的に「かわいい」と評価していただけたことは、デザイナーの自信につながったと思います。
以前はリボンやフリルが「かわいい」の代名詞だったように思いますが、その定義が時代とともに変わってきているのでしょうか。
塚本:そうですね。「かわいい」が多様化しているのだと思います。
ちなみにウンナナクールはもともと、他の下着屋さんとは違うデザイン、独自性を意識していました。だけど、独自性だけを目的にするとものすごく大変なんですよね。「他にないけど求められているもの」なんてなかなか見つからないし、「変わったものを作らないといけない」と思うと、珍しいだけのデザインになってしまったり、本質的ではないデザインになってしまうんです。
だけど、シンプルでミニマルなデザインでも、ちゃんと「かわいい」や「ウンナナクールらしさ」は作れる。364ではそれを再認識しましたね。これもやはり、コンテキストの力なのではないかと思っています。また、だからこそいろいろな方とコラボレーションもできる。ベースがシンプルで確固としているからこそ、バラエティに富んだコラボができる、強いアイテムになったと感じています。
「これだけあれば大丈夫」と思われる364
下着に対する考え方自体も、お客様の中では変わっていっているのではないでしょうか。
塚本:それはとても感じますね。364を使われたお客様にはよく「もうこれだけでいい」と言われるのですが、中には364を一気に12枚まとめ買いされた方もいらっしゃいました。
12枚も!
塚本:手持ちの下着が全部が同じ商品になるってなかなかないことだと思いますが、おそらくそのお客様はすべて364で揃えてくださったのではないでしょうか。これは新しい下着との関わり方だなと思いましたね。
以前あるブログで見かけたのですが、「ブラとショーツがバラバラになるのが嫌」と書かれている方がいらっしゃいました。洗濯をしたのにブラだけ乾いていないとか、別のブラにすると着たいアウターに合わないとか、日々小さなストレスなのだと。その方は結局、シンプルな黒のブラとショーツで全部揃えたそうです。Apple創業者のスティーブ・ジョブズは、毎日服を選ぶストレスを払拭するために、黒のタートルネックを制服とされていたそうですが、それと似ていますよね。新しい下着の選び方だなと感じて、感銘を受けました。
364は、そんな存在にもなりうると思いますね。「これだけあれば大丈夫」と思われる商品になれるのは、とても嬉しいことです。
私も先日2枚購入したのですが、同じように「これで全部揃えようかな」と思いました。ブラをつけるとよく「盛っている」感じがしてしまうのですが、364をつけたときにはつけ心地もデザインもちょうど良くて、素の自分に戻れたような気がしたんです。そういうところも受け入れられているのでしょうね。
塚本:そう言っていただけると嬉しいですね。それだけ満足していただけるということは、これが自分たちの正解の形なのだと自信が持てます。
また、実際、店舗スタッフにも364のファンがとても多いんですよ。「好きだからお客様にも知ってもらいたい」「これを知らずに帰られてしまうのはもったいないから伝えたい」と、熱心におすすめするスタッフがいることは、364が売れている大きな要因だと思いますね。
自分自身で選び取れる自由さを
塚本:もう一つ、これは僕個人の考えなのですが、ここまで364が受け入れられているのは、「囲い込みをしないこと」も一つの理由だと思います。
「囲い込みをしない」?
塚本:「364」という言葉の通り、残りの1日……いちばん良いところを持っていかないって言うんでしょうか(笑)。いちばん大事な日は、うちの商品でなくてもいい。だけど、それ以外は364でいかがでしょうか?というのが、ちょうどいい塩梅なのかなと。
そう思ったのは、店舗のスタッフの接客に対して、こんなお褒めの言葉をいただいたからです。「私が探しているものがウンナナクールになかったときに、スタッフさんは他ブランドの商品を気持ちよく勧めてくれた」と。
へえー!
塚本:その方は、「結局ウンナナクールでは商品を買いませんでしたが、とてもいいお買い物ができました」とおっしゃっていました。これはまさに、「女の子の人生を応援」する接客。先ほど言ったように、「囲い込まない」からこそできたことだと思うんです。
確かにそうですね。「商品を売りたい」というエゴではなく、あくまでお客様の人生に寄り添うというか。
塚本:そもそも、「ウンナナクール」って「ちょっとかっこいい女の子」っていう意味なんです。このスタッフは、まさにそうですよね。押し付けがましくなくて、余裕があって、誰かを応援して笑顔にできる。それこそが、ウンナナクールがやりたかったこと。364もまた、それを体現した商品だと思いますね。
確かに私は、ウンナナクール自体にそんなイメージがあります。「店員さんに強くすすめられたから」でもなく「誰かにかわいいって思われたいから」でもない。自分自身で選び取れる自由さと言うのか。「囲い込まない」「押し付けない」と言うのが、心地よいのかもしれません。
塚本:そのように受け止めていただけると嬉しいですね。ウンナナクールでは「女の子はこうあるべき」と決めつけないでいたいんです。誰かのためではなく、自分のために下着を選んでほしい。その一つの答えとして、364を選んでいただけたら、とても嬉しいです。
profile
塚本 昇
1977年生まれ。
大学卒業後2000年に福岡の百貨店、株式会社岩田屋に入社。その後2003年に株式会社ワコール入社。
生産部門や商品営業部、米国駐在を経て2015年より株式会社ウンナナクールに販売部長として出向。2017年より現職。
株式会社ウンナナクールでは『女の子の人生を応援する』というブランドパーパスを達成するべく、既存の下着屋さんとは一線を画したブランディングを展開している。