女の子の人生、きいてみよう #03 後編

〝大海原で浮き輪を見つけた〟気分になれるまで

女優 安達祐実

女優、安達祐実。
そして、一人の女性としての安達祐実。

そこには「女の子の人生を応援する」すべてがあった。
しなやかさも、弱さも、美しさも、かわいさも、すべて。

コミューンの会場に集まった女性の想いが伝染し、安達祐実さんは赤裸々に自身の体験を話してくれた。
───女の子に勇気を与える言葉の数々。

誰かが決めた〝正解〟という枠から抜け出した。
そんな〝わたし〟を肯定してくれる人がいた。
そして〝わたし〟は、自由へと解き放たれた。

〝自分らしさ〟は、自分の中の〝好き〟にある。

質疑応答

(参加者)お仕事で心が病んだ時に、「もう一回がんばろう」と思えたきっかけはなんですか? それとも時間が解決したのでしょうか?

安達
両方あると思います。仕事を辞めたくて悩んでいたわけではなく、「このまま終わるのかな?」という恐怖で病んでいたので「仕事がなければ生きていけない」と思っていました。それだけはずっと自分の中にありました。ただ、「仕事がなくならないためにはどうしよう?」など具体的なことは全然考えることができていませんでした。

中学生の頃まで実家に住んでいて、仕事以外の時間は部屋に閉じこもってずっと泣いていた記憶があります。家族はずっとそれを見守っていて。ある時、母が部屋に入って来て「自分の目を見たことある?
今のあなたの目は腐った魚の目だよ。そんな目をした人を使いたいプロデューサーは一人もいないよ」と言われました。そこから、「自分がこうじゃいけない」と思った。「この人と一緒に仕事をしたい」とか「この人、輝いている」と思ってもらえるような自分にならないと先に進めないということに気付きました。

だから、「仕事が欲しい」とか「仕事を取ってこよう」という気持ちの前に、まず人として自分が健やかに、穏やかに輝ける精神状態になろうというころがきっかけですね。
千原
正常な状態に戻すための生活を送る。
安達
だから「気分転換になることなら何でもやろう」と。それまで外に出るということに目を向けていなかったのですが、家族旅行をしたり、自分がどうやったら気分良くいることができるか。そのために環境を整えるということをしてきたと思います。
千原
〝自分らしくいる〟というのは重要ですし、難しいところですよね。僕も気をつけなきゃと思っています。仕事が忙しくなり過ぎたり、あるいは仕事がなかったり。それは仕事の質にもよるのですが。
安達
自分が思うような仕事じゃない時ですね。
千原
「今、自分がおもしろいと思っている仕事をやれているかな?」って。焦って思いもよらない行動に出たり。わけのわからないことになってくるんですよ。

この間、蜷川実花さんの映画の現場を見学に行ってきたんですね。朝から晩まで監督の横について見ていました。そうしたら蜷川さんが「映画の現場は〝自分らしくいる〟ということが一番大事だから」と仰って。スタッフの数も多いし「監督、監督、これどうしたらいいですか?」って矢継ぎ早に言われるから飲まれちゃうんですって。あんなにも自然体でやれている人でも、飲まれて自分の思うようにできないことがたくさんある。「だから千原くんは、映画を撮る時は〝自分らしくいる〟ということを念頭に置いてやってください」って。良いアドバイスをいただきました。
安達
監督という立場でもそうなんですね。

(参加者)ここ数年の安達祐実さんの自然体の美しさに驚かされます。「年を重ねるごとにこんな風に輝けるんだ」って。どのようにして今の感じに辿り着いたのかお聞かせください。

安達
特に「こういう自分像になろう」と考えてやっていたわけじゃなくて、とにかく〝着たいものを着る〟、好きなものを身につける。派手だろうが地味だろうが関係なく、〝自分が着たければ着る〟という風になっていったかもしれません。人から「今日、あいつどうしちゃったの?」と思われようが関係なく。
もちろん人の目を気にしていた時期もありました。でもね、「すごい服着ているね」と言われても「着たかったから」という素直な言葉で収めることができることに気付いたんです。だから、ファッションもメイクも、似合う似合わないかは分かりませんが〝とにかく好きにやってみる〟という感じです。
千原
安達さんは年を重ねる毎に輝く希望の星ですよね。
安達
すごい、ヒーローみたい(笑)。
千原
それこそ女優さんでも、ピークを迎えてメディアからいなくなってしまう人もいます。年を取ると、年を取った仕事の質に変わっていくのでしょうが、安達さんの場合は「新しい安達祐実」という印象になっているところがすごいですよね。
安達
多分、若い頃から仕事をしているけど、実は遅咲きなんだと思います。ファッションに目覚めるのも遅かったし、メイクに興味を持つのもすごく遅かった。普通の子が10代後半から20代前半にかけてやってきたことを今やっているという感じです。自分の年齢に合っていないことをやっているのでしょうが、それは大人がゆえにカバーしつつ楽しめています。
千原
本当に「自分を楽しむ」ということが大切ですね。
安達
そうですね。今の気持ちになるまでは、全然楽しくありませんでした。若い頃は自分のルックスも本当に嫌いで。何をやっても「ちんちくりんだなぁ」と思っていて。「子どもっぽい」とずっと言われてきたし、どうも大人っぽくなれない。年齢的には大人なんだけど、世間からは大人として認められない。そういうコンプレックスがありました。でも、だんだん年を重ねてきて、ようやく追いついてきてくれたという感じですね。
千原
だから、今を楽しんでるっていうことですね。
安達
そうですね。とても楽しいです。

(参加者)私も童顔で悩んでいます。安達さんはお気持ちをどのように克服されたのですか?

安達
今はアラフォーですから、老いを意識するようにはなってきました。昔は童顔で、見た目が子どもっぽいと、中身まで子どもっぽいと思われる。それがとても腹立たしかったですし、見下されている気持ちにもなってすごく悔しい想いもありました。若い頃は、「早くこんな自分から脱却したい」と思いながら、ふつふつとした時期を過ごしていました。

でも、その気持ちを変えてくれたのは恋愛じゃないかな。このルックスだけど、中身を見てくれている人がいて。それを愛してくれる人もいて。その時々で自分を救ってくれるのは、そういう大切な人の存在なのかなって。
千原
そうだよね。〝肯定してくれる人がそばにいる〟ということが大事ですよね。
安達
同性の友だちで「そこがいいところだよ」と言ってくれる人もとても大事だけれど、でも、やっぱり女の子だから、女性として愛されたいという気持ちがあるじゃないですか。そこをきちんと〝女性として向き合ってくれる人〟というのが大きな存在でした。もちろん、今もそうですが。

(参加者)仕事が落ち込んだ時から今にかけて仕事が楽しいと気持ちや考えが変わったきっかけは?

安達
私の中で「お芝居が好きなのか分からない」というのはずっとあるんですね。職業は俳優だけれど、私は演技というもの自体が好きなのかと問われると本当にそうなのか自信を持って答えることができないんですね。物心ついた時からお芝居をする環境にいたからやっている。そのことによって人に認めてもらえるから、それがうれしくて続けているような気がします。

だけど、その時々によってお芝居の仕方が変わっていて。あまりうまくいかなかった時期は、よく言えば〝正統派〟、正しいお芝居をして正解を出すことを目指していました。監督やプロデューサーから「お前は器用貧乏だよ」って言われることが多かったんです。正解を出せるけど、それ以上のおもしろみがない。すると、正解を出していくことには限界があるということに気付いたんです。それが20代後半の頃で。
安達
そこから意識を変えてみたんですね。30代に入り、もっと自由な視点でお芝居を見るようになりました。それまでは役に対して自分を近づける───憑依に近い感覚で演技をしていたのですが、役を自分に近づける方にシフトを変えました。そうしたらお芝居することがすごくおもしろくなって。人間味が増して、その役の体温を感じるというか。それは、自分にとっても新鮮だし、楽しめるようになったというのはありますね。お芝居に対する〝おもしろさ〟の幅が広がりました。
千原
〝正解を出さない〟というのは、ある種、仕事だけでなく生きていくことにおいても、おもしろい方向へと転がっていくことに繋がるような気がします。広告業界にいると、正解を出すことが仕事になっているんですね。クライアントさんが「こういう商品を売りたい」という要求の裏には必ず、「正解を出してください」という意味が込められている。それとは逆にアートを見ていると、疑問を投げかけているだけで正解は観客に求めている。「みんな答えを考えてみて」って。そっちの方が自由で、みんなにとってもおもしろかったりする。だから、正解を出さなくていいということは生きる上で、すごく大事なワードのような気がします。

(参加者)若い時に想像した将来の自分と、今の自分は合っていたりしますか?

安達
全く違うと思います。私は子どもの頃からずっと、「正しい人でありたい」と思っていたんです。だけど、正しい人でいられなかった。この〝正しさ〟というのは、自分のモラルに沿っていて、真っ当な人間ということ。でも、できちゃった結婚をしたし、離婚も経験した。子どもの頃に思い描いていた〝正しい人〟とは、全く違う私になりました。でも、人ってそうやって変わっていくんです。

想像していた自分とは全く違うけれど、今の自分も好き。さっきも老いについて考えると言いましたが、年を重ねることが怖くない。体力やスタイルなど、失っていくものはあると思うのですが、そのぶん豊かになる部分もある。想像とは違うけれど、すごくいいものだなって。
千原
子どもの頃、「大人になったらまともになるのかなぁ」とかずっと思っていたじゃないですか。でもね、言っていることは小学生の時から変わっていないんですよ。ずっとキン肉マンが好きだし、ずっとスターウォーズが好き。何も変わらない。
安達
思ってた。なんとなく普通の人になるんだろうなって。
千原
全然変わっていないんですよ。そういうダメなところを経験することが、大人になっていくことかなぁと思うんです。失敗したり、離婚したり、いろいろ積み重ねていくということが。その失敗をいろいろな人に伝えることができることになっていくので、そのままでいいという気がするんですよね。〝理想の大人像〟とか気にしないで生きていくといいと思いますけどね。

プロフィール

1981年9月14日生まれ。東京都出身。2歳でデビューし、活動を始める。
1994年ドラマ「家なき子」(日本テレビ系)で主演を演じ、脚光を浴び、一躍注目を集める。
以降、女優として数多くのドラマや映画に出演し、今年、芸能生活35周年を迎えた。

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