女の子の人生、きいてみよう #06 前編

目の前のことをひとつひとつやっていくこと

シンガーソングライター Ka-Na(植村花菜)

自分で選ぶこと。
それは、責任を背負うこと。

Ka-Naさんの歌声が響く。
14年分の思い出を込めた特別な10分間。
それは、聴き手の心の中で、それぞれの記憶とリンクする。
「あなた」の歌が、「わたし」の歌として流れはじめる。
気が付けば泣いていた。

選んだものを大切にする。
大切にしたものに責任をもつ。
これは決意表明だ。
そして、それは人生の宝物になる。

Ka-Naさんの言葉は、足踏みしたわたしの背中を押してくれた。

“人のせい”というのは、ない

“人のせい”というのは、ない

いつもどんな時でも楽しいんですよ。しんどい時はそれはそれで学ぶことがたくさんあるから楽しい。

Ka-Na
ニューヨーク(NY)に引っ越して、この冬で3年になります。年に平均3回くらい日本に帰って来て、NYと日本との両方で活動をしています。アメリカでは自分でライブを組んだり、イベントに出演させていただいたりしながら歌っています。
千原
「トイレの神様」(2010年のミニアルバム『わたしのかけらたち』収録)が大ヒットした頃と今とでは心境の違いはありますか?
Ka-Na
その時々で楽しいんですが、無理をしていない分、今のほうが断然楽しいですね。
千原
当時は無理をしていたんですか?
Ka-Na
してたしてた!(笑)めっちゃ無理してましたよ! 無理をしていたというと語弊があるかもしれませんが、三ヵ月で一日も休みがない時もあったし、いろんな人からいろんなことを言われて傷つくこともあった。もちろんお仕事は充実していたのですが。とはいえ、いつもどんな時でも楽しいんですよ。しんどい時はそれはそれで学ぶことがたくさんあるから楽しい。でも、今の方が自由度が高くて。
去年、事務所を独立して、マネジメントもすべて自分でやるようになりました。自分の意志ですべて決めて、すべてが自分の責任になって…、それが私は心地いい。「人のせい」というのは、私はないと思っていて。全部自分で選んでいるし、何かあれば「自分のせい」なんです。そう思っていても、誰かと一緒に仕事をすると、ついつい人のせいにしたくなっちゃう時もある。
“人のせい”というのは、ない
千原
仕事ってうまくいかないと「あの人に言われたからだ」とか、最後には世の中のせいにして逃げてしまうこともある。何とでも人のせいにできますもんね。
Ka-Na
それが一人でやっていると人のせいにできない。それが心地良いし、ラク(笑)。人と関わると、その人のことも大事にしないといけないし、何かあった時に責めたくなる気持ちも出てくる。一人の場合は、失敗しても自分で責任をとらなきゃいけない。いいことがあればみんなで分かち合えるし、失敗したら一人で被ることができる。
千原
〝自由〟は「トイレの神様」の大ヒットが関係していたりします?
Ka-Na
めっちゃありますね。「トイレの神様」がヒットする前ってメジャーの契約が切れる寸前やったんですよ。あの曲が収録されたアルバム『わたしのかけらたち』はメジャーでリリースする最後のアルバムになるはずでした。
当時、仕事だけでなく、恋愛でも、家族のことでもうまくいかなくて。私が人に誇れることって超ポジティブシンキングなところしかないんですけど、そんな私が落ち込んで、落ち込んで……。「自分にはこの仕事が向いていないのかもしれない。もう辞めようかな」と考えていた。でも、いろいろ思い直して「最後の一枚を納得するまでやりたい」って。
「自分にしか書けない曲ってどんなのだろう?」と思いを巡らせていた時に、今の私があるのはおばあちゃんのおかげやなと思い至って、おばあちゃんのことを書きたいと思った。デモテープをつくり、当時の社長さんに聴いてもらいました。
その後に、レコード会社の制作部長から社長へ「ちょっと話があるので事務所に行きます」と連絡がありました。社長も「いよいよ植村のクビの話か」と思って、部長が着くなり「植村の新しいデモテープは聴いた? とりあえず黙って聴いてくれ」と「トイレの神様」を聴かせたそうです。で、聴き終わった後に制作部長が「これは売らないといけませんね」と言って、クビの話をできずに帰ることに。
千原
歌の力はすごいですね。
“人のせい”というのは、ない
Ka-Na
本当に歌の力はすごいと思います。自分の曲がとかそういうことじゃなくて。私は“音楽は希望”やと思っていて。いろんな音楽が世の中にあると思うんですけど、どれだけ悲しい曲でも、明るい曲でも、その音楽の先に明日から前向きに生きるヒントがあると思います。
千原
別に前向きとかそういう内容の歌詞じゃなくても、聴いているだけで精神が解放されることがある。イントロを聴いただけで「わぁーっ」となったり。でも、何より社長と制作部長が「売らなあかん」と思えたのがすごいですよね。しかもそれで、実際にヒットしたわけですもんね。
Ka-Na
あんなにヒットするとは私が一番思っていなかった。おばあちゃんとの思い出をただ書いただけやから。めっちゃ個人的な歌じゃないですか。
千原
その個人的なことが、みんなの中でリンクしたんでしょうね。
“人のせい”というのは、ない
Ka-Na
最初は疑問しかなかったんですよ。家族が泣くのならまだわかるんですけど、「全然知らない人が泣くって何でやろう?」と。いろんな人の感想を聴かせていただいて思ったのは、歌詞の中におばあちゃんとの思い出の鴨南蛮とか、一緒に遊んだのが五目並べとか、そういうエピソードがあるんですが、聴く人の中に全く同じではないけど、近しい思い出がそれぞれにあるんですよね。鴨南蛮がオムライスだったり。そういう具体的なことを提示することによって、聴く人の思い出が蘇る。「私の場合はこうだった」と照らし合わせて音楽を聴いてくれるんやなって気づいて。
千原
抽象的なことだけを言われても共感しきれなくてピンとこなかったりしますもんね。具体的にすることで、あの曲はみんなの心に共感が生まれた。

「トイレの神様」
作詞:植村花菜/山田ひろし
作曲:植村花菜

小3の頃からなぜだか
おばあちゃんと暮らしてた
実家の隣だったけど
おばあちゃんと暮らしてた

毎日お手伝いをして
五目並べもした
でもトイレ掃除だけ苦手な私に
おばあちゃんがこう言った

トイレには それはそれはキレイな女神様がいるんやで
だから毎日 キレイにしたら 女神様みたいに
べっぴんさんになれるんやで

その日から私はトイレを
ピカピカにし始めた
べっぴんさんに絶対なりたくて
毎日磨いてた

買い物に出かけた時には
二人で鴨なんば食べた
新喜劇録画し損ねたおばあちゃんを
泣いて責めたりもした

トイレには それはそれはキレイな女神様がいるんやで
だから毎日 キレイにしたら 女神様みたいに
べっぴんさんになれるんやで

少し大人になった私は
おばあちゃんとぶつかった
家族ともうまくやれなくて
居場所がなくなった

休みの日も家に帰らず
彼氏と遊んだりした
五目並べも鴨なんばも
二人の間から消えてった

どうしてだろう 人は人を傷付け
大切なものをなくしてく
いつも味方をしてくれてた おばあちゃん残して
ひとりきり 家離れた

上京して2年が過ぎて
おばあちゃんが入院した
痩せて細くなってしまった
おばあちゃんに会いに行った

「おばあちゃん、ただいまー!」ってわざと
昔みたいに言ってみたけど
ちょっと話しただけだったのに
「もう帰りー。」って 病室を出された

次の日の朝 おばあちゃんは
静かに眠りについた
まるで まるで 私が来るのを
待っていてくれたように
ちゃんと育ててくれたのに
恩返しもしてないのに
いい孫じゃなかったのに
こんな私を待っててくれたんやね

トイレには それはそれはキレイな
女神様がいるんやで
おばあちゃんがくれた言葉は 今日の私を
べっぴんさんにしてくれてるかな

トイレには それはそれはキレイな
女神様がいるんやで
だから毎日 キレイにしたら 女神様みたいに
べっぴんさんになれるんやで

気立ての良いお嫁さんになるのが
夢だった私は
今日もせっせとトイレを
ピカピカにする

おばあちゃん
おばあちゃん
ありがとう
おばあちゃん
ホンマに
ありがとう

プロフィール

8歳の時、映画『サウンド・オブ・ミュージック』を見て、その世界観に感銘を受け、歌手になることを決意。
2002年1月、独学でアコースティック・ギターと同時に、作詞・作曲も始める。
2005年5月11日、シングル「大切な人」でメジャーデビューを果たす。
2010年3月にリリースしたミニアルバム『わたしのかけらたち』に収録された「トイレの神様」が各方面で驚異的な反響を呼び、オリコン・有線・着うた(R)ランキングなどの各チャートで、上位を長期的に賑わすロングヒットを記録。同曲は2010年11月にシングルカットされ、「日本レコード大賞」で優秀作品賞と作詩賞のW受賞。「NHK紅白歌合戦」への初出場も果たし、2010年を代表する1曲として、多くの人に愛される曲となった。
2011年、仕事で訪れたアメリカテネシー州のナッシュビルで、日本とアメリカの文化や価値観の違いに衝撃を受け、翌年2012年にギターを一本抱えて、一人で約2ヶ月間の音楽武者修行を敢行。ニューオリンズ、ナッシュビル、NYなど、各地でストリートライブや飛び入りライブをする日々を送る。
2013年1月29日、前年のアメリカ一人旅で知り合ったジャズドラマー清水勇博氏と結婚。
2015年1月27日第一子となる男子を出産。
2016年末、家族でNYへ移住。
2017年にはカーネギーホール、2018年には ケネディーセンターなど、著名な場所でパフォーマンスを行い、2018年8月27日、FCI放送局ニュース番組「FCI News Catch!」のテーマ曲「Happiness」の発表を機に、正式にアーティスト名を植村花菜から「Ka-Na」に改名。
同年秋には、スザンヌ・ヴェガのプロデューサーとして知られるスティーヴ・アダボを迎え、外国人ミュージシャンと共にEP「Happiness」を制作。
透明感溢れる歌声と親しみのあるキャラクターで、多くの人々を魅了するKa-Na(植村花菜)。母親となった彼女は、また新境地を拓きながら、音楽の道をひたすら歩み続けてゆく。

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