女の子の人生、きいてみよう #04 後編

音楽で自分を肯定するということ

シンガーソングライター 吉澤嘉代子

「音楽がなかったらと思うと怖い」

吉澤さんはそう言いました。
喜びも、悲しみも、うれしさも、苦しさも。
心の中に湧き立つ全てが音楽として凝縮され、形になっていく。

ずっと〝自分〟と向き合ってきたから、そして、これからもずっと向き合っていく〝自分〟だから。
うれしい時も、悲しい時も、どんな時だって自分のことを認めてあげたい。

大切なものを「大切だ」と思える〝自分〟が愛おしい。
吉澤さんにとっての音楽は、わたしにとっての何だろう?
その答えを知っているのは、かけがえのない〝自分〟。

「目印が心の中にないと。舵を取るのは結局自分自身なので」

質疑応答

質疑応答

(参加者)男性女性関わらず、このような人が好き、あるいは苦手というタイプはありますか?

吉澤
子どもの頃から枠にはめてくる人は苦手でした。生まれや育ちで排他的に区別をする人には結構反応してしまいます。
千原
今でもそういう区別を感じることってあります?
吉澤
自分が受けるというよりは、誰かがそういう扱いを受けているのを見た時に一言申したくなっちゃいます。そういうこと(枠にはめること)をしているとお互いがしんどくないかなって。
千原
好きな人は?
吉澤
そう考えると真逆の人───枠にはめてこない人ですね。自分の本質を見ようとしてくれる人。わかってもらえなくてもいいのですが、見ようとしてくれているだけで心が満たされる。多分、私だけでなくみんなもそうだと思います。
千原
わかってくれなくてもいいですよね。自分の本質的なところに向き合おうとしてくれてる人。
吉澤
そういう人が好きだし、自分もそうなれたらいいなって思います。

(参加者)二ヵ月前に上京してきました。それまでは友だちもたくさんいたし、実家暮らしだったので初めて孤独を感じています。孤独とはどのように向き合っていますか?

吉澤
「寂しさ」は最大の敵ですよね。日々の生活の中でいろいろなものを邪魔してくる。でも、自分の中だけの大切な成長や心の整理は一人じゃないとできない。わかりやすい話でいうと、曲をつくる時は孤独じゃないと制作が進みません。それは音楽をしている人じゃなくても〝自分の中の何かを育む時〟というのは一人の時だと思います。だから、それは大切に想うしかないのかなって。
千原
僕は28歳で上京しました。二ヵ月ほど経った時、「帰ろうかな」と思った。仕事は辛いし、京都に仲のいい友だちがたくさんいたので一人暮らしが寂しかった。ちょうどその頃、僕の誕生日で母と弟が東京まで会いに来てくれました。僕が住んでいるアパートで、川の字になって三人で寝た。ふと「この三人で寝るということは、今後もうないのかもしれない」と思った。その時、「やらなきゃ」と思いました。自分が東京でがんばって、この二人を東京に呼んで、また一緒に暮らしたい。孤独な時こそ力が出るんだって、その時思いました。
吉澤
そう考えると、「離れることを大切にしよう」と思いますね。
千原
遠く離れたところに家族や友だちがいると、より大切さを感じます。それを力にできればと思います。

(参加者)下の世代の文化や流行にジェネレーションギャップを感じます。自分が上の世代の人に「ちょっとダサいな」と思ったりしていたことがあったのですが、自分でもそういうことを下の世代の人に思わせているんじゃないかと不安です。自分を大切にしつつ下の世代となめらかなコミュニケーションをとる方法を教えてください。

吉澤
自分がその年齢だった頃に「どんな年上の人が好きだったんだろう?」と考えればいいと思います。私の場合は「若いね」と言ってこない人でした。

年齢や若さで物事を判断しない人。
自尊心を持っている人。
価値観を押しつけず、自分のことを大切にしている人。


そういう人がすごくかっこよく見えていました。それってすごく人として当たり前のことだと思うのですが、世代が変わってしまうと分からなくなってしまうこともある。だから、自分がどうだったかを思い出して接することを心がけています。
千原
〝若い〟というだけで一つの力じゃないですか。いくら追い求めても、年を重ねたら〝若さ〟には勝てない。だから「若い感性がある」というより「個性がある」ということの方が大切だと思います。僕も人から「千原さん独自の世界があるよね」と言われた方がうれしい。そちらを研ぎ澄ませていく。
吉澤
個性を磨く。武器を磨く。
千原
学生の頃はすごくおもしろかったのに、就職したらそれなりな感じになっている人もたくさんいて。「若い時の方がおもしろかったよね」って言われないようにがんばりたいですよね。

(参加者)29歳を迎えた友だちから「30歳になる前にこうしておきたい」という焦りがあるようでよく相談を受けます。年齢について、お二人のお考えをお聞かせください。

吉澤
私の友だちの間でも論争が起きていますね。「今後いつ出会いがあるかわからないから、そこまで好きじゃないけど今の彼と結婚しちゃおうか」という派とか「どうして気持ちがない人と結婚するの?」「そもそも結婚って絶対にしなきゃいけないものなの?」という派とかで。
私はその論争の中でいつも何も言えなくなってしまいます。世の中の流れを見ながら、焦って結婚するのはもちろん良くない。でも、〝結婚〟というものをとりあえずしたいのであれば、まずは一回してみるということも一つの選択肢なのかなって。「この年齢までに結婚しなくちゃいけない」というものが全部なくなればいいのにって思いますね。
千原
年齢でいうと、男性よりも女性の方が悩みを抱えているかもしれません。先程も言いましたけど、僕の場合は28歳で東京に出てきました。この業界で〝28歳〟という年齢だと、独立して会社を作っていたり、すでにみなさん活躍されていて。そこを僕は一からというスタートでした。
でも、逆に焦りはありませんでした。若い時は「若いね」と言われることがプレッシャーになっていたのですが、その頃には「そもそも自分は遅いんだ」と思えることができた。ある年齢を過ぎると誰にも何も言われなくなるんですよ。誰も〝僕〟のことを気にしていない。強いて言えば「成功できなかった人」くらいにしか思われないので、それは気楽で心地良かったですね。自分の中で「40歳までにがんばってやる」という気持ちでした。
だから吉澤さんが言っていたように「自分を認めてあげる」ということは大事かもしれません。
吉澤
年齢制度とかなくなったらいいですよね。
千原
確かに。誕生日だけお祝いするとかね。
吉澤
そう、「何歳かは分からないけど、今日は誕生日なんだ」って(笑)。私はむしろ10歳になるのが怖くて───二桁になることに恐れていたんですね。年を重ねることに対してさんざん怖がってきたのですが、今29歳で「これから30歳になっちゃうんだ」ということに対してはあまり何も感じないですね。年を重ねるということがどんどん楽になっているような気がします。

子どもの頃が一番苦しくて、20代は社会の中でやっていくことが大変で…。「30代になるともう少し楽になるのかな」と思っていて。40代50代で周りを見渡せるようになって、人との出会いや、接し方にも変化が起きてきたり、もっともっと余裕を持てるんじゃないかと思っています。
「生きているだけで苦しい」というものが、少しずつ解けていっているような気がします。体力面や健康面に不安を感じていたとしても、その分、心は楽になっていく。それを期待して生きているので、すごく楽しみなことが多いです。
質疑応答

(参加者)自分らしさを感じる瞬間とは?

吉澤
自分で〝自分の個性〟ってなかなかわかりませんよね。ただ良くない時の方が〝自分らしさ〟を感じやすいかもしれません。人とうまくコミュニケーションを取れないことが自分の中ですごく大きくて。たくさんの人がいる中で自然に振る舞えなかったり、緊張してうまくしゃべれなかったり。そういう時に「もっと器用になりたかったなぁ」と思ったりします。でも、すごくなめらかにお話ができたり、人をいい気分にさせる会話ができていたとしたら、多分、曲は作っていなかったかもしれません。
千原
「他の人と違うものをつくらなきゃ生き残っていけない」「自分の個性をアピールできなきゃ作品じゃない」「〝千原徹也〟であることの意味とは?」
そういうところを探して「こういうものが自分だ」というふうにやっていくと、できあがった作品を見て、そこがすごく気になってしまうんですよね。「自分らしくしようとしているな」とか「自分らしくしようとし過ぎかな?」とか。でも、何も考えずに作ったものほど「これって千原くんっぽいね」って言ってもらえたりして。自分では「何の個性もつけることができなかった」と思っているのだけど、意外と周りはそういうふうに評価してくれる。その時、「あ、これが自分らしいってことなのかな」って。
何も考えていない時が一番自分らしいんじゃないかって、最近作品をつくりながら思っています。

プロフィール

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場育ち。
ヤマハ主催「Music Revolution」でのグランプリ・オーディエンス賞のダブル受賞をきっかけに2014年メジャーデビュー。
バカリズム作ドラマ「架空OL日記」の主題歌として「月曜日戦争」を書き下ろす。
2ndシングル「残ってる」がロングヒットする中、2018年11月7日に4thアルバム『女優姉妹』をリリース。
今年デビュー5周年を迎え、11月には地元川口で「デビュー5周年記念 吉澤嘉代子のザ・ベストテン」を開催。

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