
女の子の人生、きいてみよう #04 前編
音楽で自分を肯定するということ
シンガーソングライター 吉澤嘉代子
「音楽がなかったらと思うと怖い」
吉澤さんはそう言いました。
喜びも、悲しみも、うれしさも、苦しさも。
心の中に湧き立つ全てが音楽として凝縮され、形になっていく。
ずっと〝自分〟と向き合ってきたから、そして、これからもずっと向き合っていく〝自分〟だから。
うれしい時も、悲しい時も、どんな時だって自分のことを認めてあげたい。
大切なものを「大切だ」と思える〝自分〟が愛おしい。
吉澤さんにとっての音楽は、わたしにとっての何だろう?
その答えを知っているのは、かけがえのない〝自分〟。
「目印が心の中にないと。舵を取るのは結局自分自身なので」
人生において大切にしていること

自分を受け止めてあげたい。
- 千原
- 今日はいくつかテーマを考えてきたのですが、最初は「人生において大切にしていること」について話してみたいなと。大きなテーマですね。
- 吉澤
- 私は日々「ごはんを食べる」とか、「お金を稼ぐ」とか、ただ生きることだけで精一杯で、人並みにやっていくだけでも大変です。前提としてそれがあって、その中で大切にしたいと思っていることは「自分を認めること」───自分で〝自分〟を認めるということが、20代の私の大きなテーマだったように思います。
- 千原
- 具体的にどのように認めているのですか?
- 吉澤
- 人それぞれに自分なりの自己肯定感というのがあると思うのですが、私はそれが低い方で、自分のことを「いいね」と思えることが少ないんです。だから、何かが起きるたびにいつも反省しています。
- 千原
- コンサートの後に反省をするとか?
- 吉澤
- コンサートは毎回、本当に反省します。もちろんよかったと思うところもあるけれど、「あそこはどうしてこうしなかったのかな?」とか。でもね、仕事の場合はいいんです。反省が音楽の糧になるから。
例えば、プライベートのこと───家族のこと、友だちのこと、好きな人のこと。特に人とのコミュニケーションにおいて反省することは多いかもしれません。 - 千原
- 人間関係のことですね。
- 吉澤
- そうですね。例えば、みんなでいる時に場違いなことをしてしまったり。特に謝るレベルではないのですが、「あの時、よくなかったな」と思い返すことはたくさんあります。小さなことでもずっと悩んでしまいます。
- 千原
- 相手はそれほど思っていなくても?
- 吉澤
- そうですね。悩んでいる自分を恥じて、そのことでまた悩む。「私ってどうしてこんなにちっぽけなんだろう?」と悩みが連鎖していく。「そんな自分でも抱きしめられるようになりたい」というのがテーマですね。
自分が一番、〝自分〟を守ってあげたい。
抱きしめてあげたい。
認めてあげたい。
そういう気持ちがあるのですが、なかなか自分は〝自分〟に厳しいです。 - 千原
- 吉澤さんの楽曲からもそれを感じます。「こんなちっぽけな自分から抜け出したい」という。ある種、自分を認めることによって新たな自分を開拓していく。
- 吉澤
- 曲のテーマになっていることも多いかもしれません。自分との対峙───その着地点というのは「自分を肯定すること」に結びついていく。そのテーマで何度も曲を書いているので、自分の中でもまだ消化しきれていないのだと思います。
- 千原
- 自分の悩みを曲にすることで認めていく。曲を書くことで消化していく、あるいは昇華していく。
- 吉澤
- 確かにそれはありますね。あと、「終わってしまったことを供養する」というニュアンスで書くこともあります。子どもの頃のこととか。
- 千原
- 曲にすることでちゃんと終わらせる。でも、「曲にできる」ということはいいですね。
- 吉澤
- 曲にできるから、なんとか自分の中で昇華できる。そうじゃなかったらどうやって出していけばよいのだろう。常に「自分の中に住む鬼」のようなものにびくびくしながら生きているという感じで、行き場をなくして、何か悪いことを起こしていたかもしれない。音楽があるからなんとか封印できているのかもしれません。音楽がなかったと思うと怖いです。
- 千原
- 僕、インスタで他の人の投稿を見て辛くなったりするんですよ。ストーリーで友だち同士が楽しそうにしているところを見ると「僕がいなくても楽しんでいるんだ」とか。
- 吉澤
- 千原さんでもそんなことを思ったりするんですね。意外と淋しがり屋なんだ。
- 千原
- 吉澤さんはそういうことあります?
- 吉澤
- 友だち同士のことはそこまでないかもしれません。でも、仕事ではありますね。「どうしてこのプロジェクトのメンバーに私は呼ばれていないんだろう?」とか。もちろん呼ばれなくて当たり前だったりするのですが「入りたい!」って。悔しいけれど、「もっとがんばろう」って思います。
- 千原
- 僕もあります。デザインをしていて「どうして僕に声をかけないんだろう?」って。そういうこともインスタを見ていると全部見えてしまう。そこで気持ちが左右される時もあって。吉澤さんってそういう気持ちになったりすることがなさそうなので意外でした。
- 吉澤
- 逆に私は「千原さんもそういう気持ちになるんだ」って。人が同じような気持ちになっているのを知るとちょっと安心しますね。

- 千原
- ファンからすると歌詞を見ながら「この曲はどういう心境だったのだろう?」と想像します。
- 吉澤
- 曲を書いている時は、主人公と一体化しています。主人公の心に自分を下ろしていって、完全になりきっている。
- 千原
- 主人公が苦しい想いをしている時は、吉澤さんも苦しくなるの?
- 吉澤
- 苦しくて、苦しくて、たまらないです。主人公が愛おしくて。「どうにか報われてほしい」という気持ちです。だから、曲の中で主人公の成長や救いのようなものを最後に入れて終わりたいというのはあります。